スポーツファンの皆さん、こんにちは!Webライターの中村夏帆です。
先日、アメリカのスポーツ界、特にナショナル・フットボール・リーグ(NFL)に大きな衝撃が走りました。インディアナポリス・コルツの長年のオーナーであったジム・アーセイ氏が、2025年5月21日に65歳でこの世を去ったというニュースです。
「ジム・アーセイって誰…?」「NFLのオーナーって、そんなに話題になるの?」
そう思われた方も多いかもしれませんね。日本ではまだ馴染みが薄いかもしれませんが、彼は単なる「お金持ちのチームの持ち主」というだけではない、非常に個性的で、良くも悪くも話題に事欠かない、まさに「名物オーナー」だったんです。
今回は、そんなジム・アーセイ氏が一体どんな人物で、どんな人生を送り、そして私たちに何を遺していったのか、一緒に見ていきたいと思います!
ジム・アーセイ氏って、どんな人?~NFLチームの顔、億万長者の実業家~
まず、ジム・アーセイ氏の基本的なプロフィールからご紹介しましょう。
彼は1959年6月13日、イリノイ州リンカーンウッドで生まれました。そして、1997年から亡くなる2025年まで、NFLの人気チームの一つであるインディアナポリス・コルツの筆頭オーナー、会長兼CEOを務めていました。まさにチームの「顔」とも言える存在だったんですね。
彼の父親であるロバート・アーセイ氏も実業家で、1972年に当時ボルチモアにあったコルツのフランチャイズを買い取り、1984年にインディアナポリスへ移転させた人物です。ジム・アーセイ氏は、そんな父親の跡を継ぎ、弱冠37歳という若さでNFLチームのオーナーとなりました。これは当時、NFLで最も若いオーナーだったんですよ!
そして、彼の純資産は、経済誌『フォーブス』によると、亡くなった時点で約48億ドル(日本円で約7400億円以上!※2025年5月時点の為替レートで概算)と推定されています。まさに億万長者ですね!
コルツを強豪へ!スーパーボウル制覇と数々の栄光
ジム・アーセイ氏がオーナーとなってからのインディアナポリス・コルツは、まさに黄金時代を築きました。
彼がチームを率いた期間で、コルツはなんと10回の地区優勝を飾り、プレーオフには18回も進出。そして、NFLの頂点を決める大一番、スーパーボウルには2度出場し、第41回大会(2007年)で見事チャンピオンに輝いています! これはファンにとっては忘れられない瞬間ですよね。
特に2000年から2009年の10年間では、レギュラーシーズンで115勝を挙げるなど、リーグ屈指の強豪チームとしての地位を確立しました。
この成功の陰には、もちろん素晴らしい選手やコーチたちの存在がありました。クォーターバックのペイトン・マニング選手(NFLの殿堂入り)をはじめ、マーシャル・フォーク選手、マービン・ハリソン選手、エジャリン・ジェームス選手、そしてヘッドコーチのトニー・ダンジー氏など、数多くのレジェンドたちがアーセイ氏のもとで活躍したんです。
型破りな個性と発言力 ~ただのオーナーじゃない!~
ジム・アーセイ氏は、ただ黙ってチーム運営を見守るタイプのオーナーではありませんでした。その型破りな個性と、時に物議を醸すほどの発言力でも知られていたんです。
例えば、2009年には、ある著名なトーク番組の司会者が別のNFLチームを買収しようとした際に、「私は彼に投票することすら考えられない。不適切で、扇動的で、無神経なコメントがあった場合…我々の言葉はダメージを与えるものであり、それは我々には必要ない」と公然と反対の声を上げ、注目を集めました。
また、2022年には、別のチームオーナーに関する不祥事が取り沙汰された際、「(そのオーナーを)解任するメリットがあると信じている」と、NFLのオーナー会議で踏み込んだ発言をしたこともあります。
時には、ヘッドコーチの解任と後任人事をめぐって、その大胆すぎる(あるいは無謀とも言える)決断が大きな議論を呼んだこともありました。良くも悪くも、彼の言動は常にNFLファンの注目を集めていたんですね。
音楽、歴史、そして…桁外れのコレクション!
フットボール以外でのジム・アーセイ氏の情熱といえば、なんといってもその桁外れのコレクションです! 彼は音楽や歴史的な記念品に対して、莫大な投資を行ってきました。
「ジム・アーセイ・コレクション」として知られるその収集品は、まさに圧巻の一言なんですよ。一体どんなものが集められていたのか、少し詳しく見ていきましょうか!
文学と歴史的文書への情熱:ケルアックからAAビッグブックまで
まず驚かされるのが、文学や歴史的に貴重な文書への深い造詣です。
例えば、2001年には、ビート文学の金字塔とも言われるジャック・ケルアックの小説『オン・ザ・ロード』のオリジナルの原稿(なんと約36メートルもある巻物だそうです!)を、243万ドル(当時のレートで約3億7000万円以上!)で購入したというからスケールが大きいですよね!
さらに、2018年には、アルコホーリクス・アノニマス(AA)の共同設立者であるビル・ウィルソン氏が手書きのメモを書き加えた、1939年発行のAAの基本テキスト『アルコホーリクス・アノニマス』(通称ビッグブック)の初版を、オークションで240万ドル(約3億7000万円以上)で落札しています。この「ビッグブック」については、彼の人生を語る上で非常に重要な意味を持つものなので、また別の機会に詳しくお話しできればと思います。
それだけではありません。エイブラハム・リンカーンやジョージ・ワシントン、トーマス・ジェファーソンといった、アメリカの歴史を形作ってきた大統領たちの手紙まで所有していたというのですから、その収集範囲の広さには本当に圧倒されますね!
地球最高のギターコレクション:伝説のミュージシャンたちの愛器
そして、音楽ファン、特にロックファンなら誰もが憧れるような、とんでもないギターコレクションも彼の自慢でした。「地球上で最も偉大なギターコレクション」とまで評されるほどなんですよ!
どんなギターがあったかというと…エルヴィス・プレスリー、ビートルズのジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、伝説のジャムバンド、グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシア(彼の有名なギター”タイガー”です!)、プリンス、そして「エレキギターの父」とも称されるレス・ポール(彼の1954年製ブラック・ビューティー!)など、まさに音楽史に名を刻むレジェンドたちが実際に使用したギターがずらりと並んでいたそうです。想像するだけでワクワクしますよね!
購入額も記録破りのものばかりで、例えばボブ・ディランがニューポート・フォーク・フェスティバルであの歴史的な「エレキ転向」を遂げた時に演奏したエレキギターを約100万ドルで、ビートルズのリンゴ・スターが使用したドラムセットを220万ドルで購入。
さらに、ピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアが愛用した「ザ・ブラック・ストラト」として知られるギターには、なんと約397万ドル(約6億円以上!)、そしてニルヴァーナのカート・コバーンが「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」のミュージックビデオで使用したフェンダー・ムスタングには、約460万ドル(約7億円以上!)もの値を付けたと言われています! もう、ため息しか出ませんね…。
スポーツ、映画、そして…多岐にわたる収集品
彼の興味は音楽や歴史文書だけに留まりませんでした。
スポーツファンとしては、1973年にアメリカ競馬史上最強馬とも言われる三冠馬セクレタリアトが実際にレースで使用した鞍や、ボクシングの伝説的ヘビー級王者モハメド・アリが、あのジョー・フレージャーとの死闘「スリラー・イン・マニラ」で履いていたブーツなどもコレクションに加えていたというのですから、本当に多岐にわたっています。
さらには、トム・ハンクス主演の映画『キャスト・アウェイ』で、無人島に漂着した主人公の唯一の話し相手となったバレーボールの「ウィルソン」まで所有していたというのですから、そのユニークなセンスには思わず笑みがこぼれてしまいますね!
コレクションを携えて:ザ・ジム・アーセイ・バンドの活動
そして、ジム・アーセイ氏はこれらの貴重なコレクションをただ仕舞い込んでおくだけではありませんでした。
なんと自身のバンド「ザ・ジム・アーセイ・バンド」を結成し、全米各地で無料のコンサートツアーを行っていたんです!すごい行動力ですよね。
コンサート会場では、彼の膨大なコレクションの中から選りすぐりの品々が展示され、訪れたファンは音楽と歴史的なお宝の両方を楽しめるという、まさに一石二鳥のイベントだったようです。ジョン・メレンキャンプやバディ・ガイといった大物ミュージシャンも彼のバンドに参加していたというのですから、その音楽への情熱も本物だったことが伝わってきます。
本当に、多趣味でエネルギッシュ、そして何よりも自分の「好き」という気持ちに真っ直ぐな人物だったんですね。
「光」と「影」~慈善活動と依存症との闘い~
ジム・アーセイ氏の人生は、輝かしい成功や型破りな個性だけではありませんでした。彼には、大きな「光」である慈善活動への情熱と、深い「影」である薬物依存症との長年の闘いがあったのです。
心のケアを支援「Kicking The Stigma」
アーセイ氏は、自身の経験も踏まえ、精神的な健康問題(メンタルヘルス)に対する偏見をなくし、支援を広げるためのキャンペーン「Kicking The Stigma(スティグマを蹴り飛ばせ)」を2020年に家族と共に立ち上げました。
この活動を通じて、彼はなんと1700万ドル(約26億円以上)を超える資金をメンタルヘルス関連の取り組みに投じ、多くの非営利団体や研究機関を支援してきました。インディアナ大学には、彼の名を冠した精神疾患やその偏見に関する研究を行う「アーセイ家族研究所」も設立されています。
その他にも、YMCAや小児病院、動物園への多額の寄付、元コルツのヘッドコーチ、チャック・パガーノ氏(白血病を克服)のがん研究支援など、その慈善活動は多岐にわたります。最近では、水族館で飼育されていたシャチのロリータを故郷の海に返すための資金提供にも関わっていましたが、残念ながらロリータはその前に亡くなってしまいました。
長年にわたる薬物依存症との闘い
一方で、アーセイ氏は長年にわたり薬物乱用という深刻な問題と闘ってきました。
2014年には、インディアナ州で運転中の薬物使用(DUI)と薬物所持の疑いで逮捕されるという衝撃的な事件が起きました。車内からは複数の処方薬のボトルと多額の現金が発見され、後の検査で彼の体内からオキシコドンやヒドロコドンといったオピオイド系の鎮痛剤が検出されたと報じられています。この事件により、彼はNFLから6試合の出場停止と50万ドルの罰金を科されました。
リハビリ施設への入所を繰り返したと言われ、2023年12月には自宅で意識不明の状態で発見され、オピオイドの過剰摂取を覆すための薬剤であるナロキソンが投与されたとも報じられています。
彼自身、2023年のインタビューで「私は金持ちの白人億万長者だから偏見を持たれている」と発言したこともあり、その言動が物議を醸すこともありました。
彼の人生は、まさに成功と挫折、光と影が複雑に絡み合っていたと言えるでしょう。
ジム・アーセイ氏が遺したもの
ジム・アーセイ氏の突然の逝去は、多くの人々に衝撃と悲しみをもたらしました。
彼の娘であるカーリー・アーセイ・ゴードンさんをはじめとする家族が、今後コルツの運営や「Kicking The Stigma」などの慈善活動を引き継いでいくと見られています。
ジム・アーセイ氏は、単にNFLチームの成功したオーナーというだけでなく、その強烈な個性、深い人間的苦悩、そして社会貢献への強い意志を持った、非常に多面的な人物でした。彼の破天荒な言動に眉をひそめる人がいたのも事実でしょう。しかし、彼がメンタルヘルスの重要性を訴え、具体的な行動で多くの人々を支援しようとしたこともまた、紛れもない事実です。
彼が遺したものは、フットボールの試合の勝敗を超えて、私たちに「人間とは何か」「困難とどう向き合うか」といった普遍的な問いを投げかけているのかもしれませんね。
アメリカのスポーツ界が生んだ、一人の稀有な人物の物語。皆さんは、ジム・アーセイ氏の人生から何を感じましたか?