皆さん、こんにちは!Webライターの中村夏帆です。
今回は、スポーツ界で大きな話題となっている、ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania、以下ペン大学)とトランスジェンダー競泳選手リア・トーマス(Lia Thomas)選手を巡る問題について深掘りしていきます。
ペン大学がリア・トーマス選手の記録を修正し、過去に影響を受けた女子選手たちに謝罪するという発表は、スポーツにおける公平性を巡る議論に新たな局面をもたらしました。これは単なる一大学の決定に留まらず、今後の女子スポーツのあり方を考える上で非常に重要なポイントとなります。データに基づいた冷静な分析と、私の熱い想いを込めて、この歴史的転換点について考察していきましょう。
Penn大学、Lia Thomasの記録を修正した背景
ペン大学がリア・トーマス選手の記録修正と謝罪に踏み切った背景には、複雑な法的・社会的な議論がありました。この決定は、連邦政府からの調査と和解交渉の結果として実現したものです。
和解に至った連邦民事訴訟の詳細
2025年2月、当時のトランプ政権下にあった米国教育省OCR(Office for Civil Rights、民権局)は、リア・トーマス選手が女子水泳チームで競技したことに対し、ペン大学が教育法改正第9編(Title IX)に違反している可能性があるとして調査を開始しました。
そして2025年4月28日、OCRはペン大学がTitle IXに違反していると結論付け、「男性が女子の競技や女性専用施設に参加することを許可したことで、女性に平等な機会を与えなかった」と認定しました。この認定を受け、ペン大学は米国教育省との和解案に署名し、一連の是正措置を行うことに合意しました。この和解は、連邦政府が大学のスポーツプログラムにおけるジェンダー公平性に直接介入した点で、極めて異例かつ重要な意味を持つと言えるでしょう。
Title IXとトランスジェンダーアスリートの関連性
Title IXは、教育プログラムにおける性差別を禁止する1972年に制定された連邦法です。当初は女子スポーツへの機会均等を確保するために導入されましたが、近年ではトランスジェンダーアスリートの参加を巡る解釈が議論の中心となっています。
米国教育省のOCRは、今回のリア・トーマス選手の件において、ペン大学が「男性が女子の競技に参加することを許可した」ことがTitle IXに違反すると判断しました。これは、Title IXの保護対象を「生物学的な女性」に限定するという解釈に基づいていると考えられます。この解釈は、過去の政権や司法の判断によって揺れ動いてきた部分であり、今回の決定は「生物学的性別」を重視する現在の政権の姿勢を強く反映していると言えるでしょう。
大学が記録修正に踏み切った理由
ペン大学は声明で、2021-2022年シーズン当時のNCAA(全米大学体育協会)の出場資格規定には準拠していたと述べていますが、同時に「一部の学生アスリートがこれらの規則によって不利益を被ったことを認識している」と認めました。
これは、当時の規則が法的に問題なかったとしても、結果的に女子選手に不公平感や精神的負担を与えた事実を重く見た結果と言えます。和解合意には、リア・トーマス選手によって破られた女子選手の記録とタイトルの回復、そして影響を受けた女子選手への個別謝罪文送付が含まれていました。大学が法的な遵守だけでなく、道義的な責任も果たそうとした、極めて慎重な判断だったと私は見ています。
Lia Thomasが打ち立てた記録とその影響
リア・トーマス選手は、女子競泳界において前例のない記録を打ち立て、その存在は大きな議論を巻き起こしました。彼女の成績は、多くの女子選手に直接的な影響を与えたとされています。
NCAAディビジョンIでの歴史的勝利
リア・トーマス選手は、2022年のNCAAディビジョンI女子水泳選手権500ヤード自由形で、**4分33秒24(4:33.24)**というタイムで優勝を果たしました。これは、オープンリー(公に)トランスジェンダーであることを公表したアスリートとして、NCAAディビジョンIで初めてのタイトル獲得という歴史的な快挙でした。
しかし、この優勝は同時に激しい議論を呼びました。彼女の優勝タイムは、2位のエマ・ウェイアント(Emma Weyant)選手の4分34秒99(4:34.99)、3位のエリカ・サリバン(Erica Sullivan)選手の**4分35秒92(4:35.92)**を上回るものでした。このタイム差は、生物学的な優位性が競技結果に影響を与えたのではないかという論争の火種となりました。
影響を受けた女性スイマーたちの声
リア・トーマス選手との競技を経験した女子選手たちからは、様々な声が上がりました。元ケンタッキー大学スイマーのライリー・ゲインズ(Riley Gaines)選手は、リア・トーマス選手と同じロッカールームを共有した経験から、トランスジェンダー女性の女子スポーツ参加に反対する活動を開始しました。
彼女たちは、生物学的な男性として生まれたトランスジェンダー女性が女子競技に参加することは、女性アスリートにとって不公平であり、努力が報われない結果につながると主張しました。ペン大学が謝罪文を送付する対象となった選手たちは、まさにこうした不公平感や精神的な不安を経験したアスリートたちだと考えられます。アスリートにとって、フェアな環境で自身の努力が正当に評価されることは、何よりも重要だからです。
記録修正後の大学ウェブサイトの変更点
ペン大学の発表後、大学の公式サイト上の女子水泳部の記録は直ちに修正されました。リア・トーマス選手が保持していた100ヤード、200ヤード、500ヤード自由形といった種目のプログラム記録は、他の女子選手の名前に書き換えられています。
ただし、記録の隣には「2021-22シーズン中に当時の出場資格規則の下で競技し、リア・トーマスがプログラム記録を樹立した」という注釈が加えられています。これは、過去の記録が存在した事実を消すのではなく、現在の公平性の基準に照らし合わせて再評価したという大学の意図を示すものと言えるでしょう。この修正は、記録の持つ歴史的な意味と、現代の公平性基準とのバランスを取ろうとする試みだと私は捉えています。
今後の女子スポーツにおけるトランスジェンダーアスリートの参加規則
今回のペン大学の決定は、今後の女子スポーツにおけるトランスジェンダーアスリートの参加規則に大きな影響を与えると考えられます。国内外のスポーツ界は、この問題に対し具体的な動きを見せています。
NCAAの参加ポリシー変更点
NCAA(全米大学体育協会)は、2025年2月にトランスジェンダーアスリートに関する参加ポリシーを変更しました。この新しい規則では、女子スポーツにおける競技参加を「出生時に女性と割り当てられたアスリート」に限定する方針を打ち出しています。
これは、以前のNCAAのポリシーよりも、生物学的な性別を重視する方向に舵を切ったことを意味します。ペン大学も、この変更されたNCAAの規則に引き続き準拠すると表明しています。この動きは、米国の大学スポーツ全体で、女子競技の公平性を確保するための明確な基準が設けられつつあることを示唆しています。
生物学的性別に基づく競技参加の動き
ペン大学の和解合意には、「男性が女子の競技プログラムに参加することを許可しない」という声明の発表と、「生物学的」な男性と女性の定義採用が含まれています。
これは、トランスジェンダー女性の競技参加を巡る議論において、「生物学的性別」が競技区分における重要な要素として明確に位置づけられつつあることを示しています。米国教育省も、NCAAや全米高校連盟(NFSHSA)に対し、生物学的男性が女子部門で獲得したタイトルや記録の修正を求めています。この傾向は、特に身体能力の差が顕著に現れる競技において、より一層強まる可能性が高いでしょう。
米国教育省の今後の動向
米国教育省OCRは、今回のペン大学との和解を「女性と少女たちの勝利」と位置付けています。教育長官リンダ・マクマホン(Linda McMahon)氏は、Title IXの適切な適用と最大限の執行を今後も relentless(容赦なく)戦い続けると声明で述べています。
この発言は、米国教育省が今後も積極的に、女子スポーツにおける公平性確保のための介入を続ける意向であることを示唆しています。もし大学が教育省の判断に異議を唱えれば、司法省への付託や連邦資金の打ち切りといった措置も視野に入れるとされており、その影響力は計り知れません。これにより、他の大学やスポーツ団体も、同様の動きを強いられる可能性があります。
【総括】女子スポーツの公平性を巡る新たな基準点
ペン大学によるリア・トーマス選手の記録修正と女性アスリートへの謝罪は、トランスジェンダーアスリートのスポーツ参加を巡る長年の議論において、画期的な転換点となる。この決定は、米国教育省との連邦民事訴訟の和解の一環であり、女性アスリートの権利保護を明確に打ち出したものだ。過去にリア・トーマス選手が樹立した記録の修正、そして影響を受けた選手への謝罪は、公平な競技環境の重要性を再認識させる。NCAAの参加ポリシー変更と合わせ、今後は生物学的性別に基づいた競技区分がより明確になる可能性が高い。今回の事例は、単なる一大学の対応に留まらず、女子スポーツ全体の公平性を確保するための新たな基準となるだろう。この動きが、今後のスポーツ界におけるトランスジェンダーアスリートの参加ルール設定にどのような影響を及ぼすか、引き続き注視が必要である。